独居老人の憂鬱

独居老人とは、一人で日常生活をしている高齢者のことです。

私が整体師として働いて十数年、多くの独居老人の患者さんと携わってきました。

結婚をされていない方、配偶者を既に亡くされている方、子供がいらっしゃらない方、子供はいるけれど遠くに住まれている方。

色々な形がありますが、独居老人は今の日本では珍しくない世帯構成です。

これは、今から10年ほど前に出会った、独居の患者さんの話です。

患者さんは退職後、奥様を亡くされて一人暮らしでした。

子供さんは２人いらっしゃいましたが、それぞれ自立されて県外にお住まいで、平日は中学の野球部の地域指導員をされていました。

睡眠も、食事も、平日の運動も気を付けている患者さんは、お歳の割にと言っては失礼ですが、元気な方でした。

そんな患者さんが来院された理由は「慢性的な腰痛」

それも決まって、土・日に悪化する腰痛でした。

『平日に年甲斐もなく野球で無理をしすぎているかもしれない。』

その当時、私は慢性症状なんて知りませんでしたから、患者さんがそう言うように、私もそうなのだろうと思っていました。

初め、受診は部活の都合で毎週火曜日でした。

『腰を揉めば楽にはなるし、また一週間頑張れる。』

私は、そう思っていましたし、患者さんもメンテナンスが必要な歳だからね。とおっしゃっていました。

そのまま、何週間、何カ月とメンテナンスは続くことになりますが、根治するなんてことはありませんでした。

３月末

患者さんの息子さん夫婦とお孫さんが、春休みを使って帰省してくるらしく、『しばらく休むね。』と施術が空くことがありました。

奥さんの命日と正月帰省の代わりもあって、春休みの長期帰省は毎年の恒例行事だったそうです。

４月に入り、お子さん達が戻ったあと、３週間ぶりくらいに患者さんが来院されました。

この時の指の感触は覚えていませんが、話した内容は覚えています。

患者さんは「孫の相手は疲れるし、くたびれる」と言っていましたが、その間に腰痛は出ていなかったのです。

しかも、春休みの間も当然部活はあっていたそうで、逆にいつもより長く指導されていました。

そして、春休みが明けて、また土・日に腰痛が発症。

これは、今なら「慢性症状」だと説明がちゃんとできます。

要するに、寂しかったのではないでしょうか？

野球で子供達と接する平日は、朝から部活時間に合わせた生活を送ります。

午後の３時～４時に間に合うように、起床し、ご飯を食べ、用事を済ませ、野球の事を考える、良い生活習慣が送られている。

土・日は試合の関係で指導が休みだったので、いつもと違う生活になっているかはわかりませんが、考えていることはたぶん違ったはずです。

寂しさ、虚しさ、不安などの心理社会的要因は、慢性疼痛の大きな要因です。

サザエさん症候群の様に、一週間の始まりが嫌な人は日曜日に憂鬱になります。

逆に、休みの日が憂鬱なケースもあって当然でしょう。

もしあの時、慢性の知識が私にあったなら、土・日に何をされていたか、何を考えられているか、を詳しく聞いたでしょう。

患者さんが納得のいく慢性疼痛の説明をし、改善策を提示できたかもしれません。

会えなくなった今となっては、土・日に何か楽しみができていることを願うばかりです。

さぁ、実家に帰りましょう！！